その他欧州の古典主義建築

西洋建築史
エル・エスコリアル宮殿 写真提供:que.madrid

イベリア半島の古典主義建築史

イベリア半島の歴史

 589年、西ゴート王国が侵入し、トレドを首都に定める。

 711年にはウマイヤ朝イスラム勢力が半島全域を征服し、コルドバを首都にする。756年後ウマイヤ朝に代わるが、1031年崩壊し小国分立時代へ移行。1230年キリスト教徒のレコンキスタ(国土回復運動)が活発化。1232年ナスル朝をグラナダに建国するが、1492年陥落。

 一方キリスト教勢力は、718年アストゥリアス王国を北部に建国。814年聖ヤコブの墓を発見。1143年ポルトガル王国建国。1469年アラゴン王子とカスティリア王女が結婚し、統一スペイン王国が誕生する。1516年ハプスブルク家の神聖ローマ皇帝カール5世がスペイン王位につき、カルロス1世と名乗る。1556年フェリペ2世が即位し、マドリッドに遷都。1580年ポルトガルを併合。

 以上概歴ですが、イスラム文化の影響を色濃く受け、細かく豊かな装飾がスペイン建築の特質となった。イスラム教とキリスト教の文化が混ざり合ったムデハル様式は16世紀まで続き、15世紀末からは、金銀細工の伝統が末期ゴシックやルネサンスと結びつき、プラテレスコと呼ばれる独自の装飾様式を生む。代表例にサマランカ大学正面(1529)がある。

スペインのルネサンス

 カルロス1世は、アルハンブラ宮殿のそばに、ルネサンス様式のカルロス1世宮殿(1568,グラナダ)を建てる。オーダーを備えた直径30mの円形中庭を持つ。

 世界に広がる大帝国を築き、スペイン絶対王政絶頂期に君臨したフェリペ2世(在位1556-98)は、冷徹なまでに厳正厳格な性格であった。イタリアに学んだ建築家ファン・デ・エレーラは、宮殿と修道院、聖堂、王廟、研究所、図書館、博物館を、正方形平面に整然と合体させた壮大なエル・エスコリアル修道院(1584,マドリッド)を建設した。左右対称の外観は装飾を極力排除した謹厳な古典主義建築で、エレーラ様式と呼ばれる。一方、内装は豪華絢爛。禁欲的な建築は、宮廷の様式として影響を及ぼしたが、装飾文化が根付く土地柄で支持されなかった。

スペイン・バロック

 17世紀末から、バロック様式が熱烈に開花する。それは、伝統的に過剰な装飾を愛好する国民性であったことと、スペイン・ハプスブルク家の国王がカトリック保護者で、対抗宗教改革を後押ししたからだ。装飾は建築的枠組みを超えて熱狂的に増殖していく。この時代の様式を、サラマンカを中心に建築と祭壇彫刻に活躍したチュリゲラ一族の名をとってチュリゲレスコと呼ぶこともある。

 トレド大聖堂の祭壇トランスパレンテ(1732)は、夥しい彫刻に背後から光をあて極限の幻想性を醸す。カルトハの聖具室(1745,グラナダ)は、細根の柱に複雑な紋様が覆うように装飾された。フェルナンド・カサス設計によるサンチャゴ・デ・コンポステーラ大聖堂のファサード(1749)は、見る者を幻惑させる濃密な装飾的造形で埋め尽くされ、バロックが行き着いた極限の一つと言える。

バロック宮殿

 ヨーロッパ専制君主制国家は、ヴェルサイユ宮殿に憧れ、バロック様式の王宮を競うように建造した。特徴のある宮殿を列挙し、バロック建築のまとめとする。

 ドロットニングホルム宮(1686,ストックホルム)は、テッシン父子が再建し、スウェーデンの歴代王妃に愛され「北欧のヴェルサイユ」の勇名を馳せる夏の離宮。1744年ロココ様式に改装された。

 ツヴィンガー宮殿(1719,ドレスデン)は、式典催行用にペッペルマンが設計し、外観に圧倒的な彫塑性がある。

 ストゥピニジ宮殿(1733,トリノ)は、ユヴァッラ設計のサヴォイア王家の狩猟の館。八角形の前庭と幾何学的庭園を取り囲む翼屋をもつ。 

 アマリーエンブルグ(1739,ミュンヘン)は、ニンフェンブルク宮殿(1675)庭園内の離宮(狩猟小屋)で、キュヴィイエが設計したドイツ・ロココの代表作。円形サロン鏡の間のパステル調の壁パネルは、鏡を貼られ銀色の奔放な曲線紋様で飾られている。

 サンスーシ宮殿(1747,ポツダム)は、フリードリヒ2世の離宮。無憂宮とも呼ぶ。瀟洒な平屋建ての宮殿だが、室内は豪華なロココ様式。

 ベルヴェデーレ宮殿(1736,ウィーン)は、ヒルデブラント設計の夏の離宮で、迎賓館である上宮と居住用の下宮からなり、上宮を映す鏡池と階段状の噴水のある庭園を持つ。内外共に強弱の調和を計り、バロックとロココの統合を実現した。

 シェーンブルン宮殿(1750,ウィーン)は、エルラッハ設計の夏の離宮。後にハプスブルク家マリア・テレジアが大規模改築し、外観は黄金色のテレジアンイエロー、内装はロココ様式に統一した。総合芸術作品として建造物と庭園が整備された。 

 サンクトペテルブルグ・冬宮殿(1762,ロシア)は、ロマノフ王朝の命でラストレッリが設計した。現在はエルミタージュ美術館。長大で華麗な正面を持ち、内部は重厚豪華なバロック様式である。

 カゼルタ宮殿(1780,ナポリ)は、田の字型平面に全ての政府機関を収容した、巨大で豪華なシチリア王の宮殿。水道橋も具える噴水と水路で飾られた、広大なフランス式庭園を有す。 

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