ロマネスク建築

西洋建築史
ダラム大聖堂 出典:Pixabay (photo by Rudy and Peter Skitterians )

ロマスネク建築の開花

 11~12世紀は、キリスト教を精神的な基盤として、統一的なヨーロッパ世界を形成した時代であった。「神の家」の建設を目指し、重厚で閉鎖的な印象をもつ教会様式を築いた。

 木造天井に加え石造天井の教会建築も登場する。地方色が強く典型的な様式には至らなかったが、強いて共通項を挙げれば、単純なマッスを集積した形態、石造の厚い壁小さな窓による簡素で素朴な外観、ロマネスク(ローマ風)の語源となった半円アーチであろう。

バシリカ式教会堂の発展

 一般的に、東西に長いラテン十字形の三廊式バシリカ平面形が採用された。中央部に身廊、その両側に側廊、東端部に祭室となる内陣、西側正面に玄関廊を配置する。内陣の前面直交方向に袖廊を設け、身廊と袖廊の交差部上部に採光のための高塔を載せた。

 防火対策上天井も石造に替え、ヴォールト天井を架けた。その重い石の荷重を支えるため、足元の円柱を厚い壁柱ピアに代えた。4本のピアで囲まれる一区画をベイと呼ぶ。身廊は、ピアと横断アーチ付きヴォールト天井を1組にした単位空間ベイを、繰り返し横に繋げた空間と捉えた。室内の垂直区分を強調してより高さを実感させ、天井の稜線を明確にするため装飾としてリブを付けた。

 石造の屋根天井は下の両壁を外側に押し開く推力を生むので、両方の壁を強固にする必要がある。そのため、外壁の控壁バットレスや、身廊立面を三層構成とするトリビューンが誕生した。壁面分節の美学も生まれる。

 また、信者を迎えるため、西側ファサードを玄関らしく整えた。鐘塔などの双塔と、装飾されたタンパンを持つ扉口で構成し、調和正面と呼んだ。

修道院建築 ―壮麗vs簡素―

 中世の修道院は、教会堂建設の推進役を担った。

 クリュニー会修道会は、ローマ法王を輩出し大修道会帝国を築いた。イスラム勢力からスペイン奪還を目指すレコンキスタ実現のため、巡礼教会の建設拡大も画策した。第三修道院(1130年竣工,フランス)は壮大な規模を誇り、多数の祭室を設け、内部装飾は華美であった。 

 聖ベルナールはこれを信仰の妨げと批判し、彼が率いるシトー会修道会は、戒律の原点への回帰を唱える。辺鄙な寂寥地で、方形の中庭回廊クロイスターを中心に、祈りと研鑽による清貧の生活を貫いた。慎ましい規模の簡明な構造で、一切の装飾を捨てた禁欲的な聖堂を建てた。修道士は学問と芸術に長けた知識人であり、神聖数と幾何学、音楽の理論を探求し、霊性を象徴的に建築に表現した。フォントネ修道院(1147)やル・トロネ修道院(1200)が建つ。

巡礼教会堂 ―巡礼の形―

 聖ヤコブを納骨するサン・ティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂(1122,スペイン)への巡礼路に、巡礼教会が多数点在して建てられた。不特定多数の巡礼者が、司祭のミサや祈祷を妨げずに、堂内を一周して聖遺物への礼拝ができる形をとった。

 巡礼者の入場制限を玄関廊で行い、二重側廊や、アプスの外周に放射状に祭室を増設した半円形周歩廊を設けて、堂内に巡回順路を設えた。地下祭室のクリュプタに聖遺物を保管して、盗難防止を図りながら礼拝にも応じた。また、玄関廊や交差部の上部に高塔を建て、巡礼者に向けたランドマークとした。

地域流派 ―豊かな地方性―

 この時代はまだ情報交流が行き届かず、その土地固有の素材・構造・形態・装飾を採用したため、地域に根差した独自性に富んでいる。

 ドイツでは、神聖ローマ皇帝の権威を誇示するため、威厳のあるファサードとなった。玄関廊の2階に皇帝用の内陣を設けて礼拝の対象とし、双塔を持つ正面の構成を西構えと呼んだ。また、多くの塔が林立する垂直性の高い外観とした。シュパイヤー大聖堂(1061)や三葉形内陣を持つ大聖堂が遺る。

 イタリアは、初期キリスト教建築の伝統を受け継ぎ、木造天井が多い。ビザンティンやイスラムの影響を受け、モザイクや色大理石、尖りアーチやゼブラ模様を施した。斜塔で有名なピサ大聖堂(1118)が建つ。

 フランスでは、地域特性から大きく三つのエリアに分けられる。

 ブルゴーニュ地方には大修道会の本拠地が置かれた。マグダラのマリアで有名なラ・マドレーヌ教会堂(1150,ヴェズレー)は巡礼路の起点の一つである。横断アーチと交差ヴォールトが連続する身廊、最後の審判を描いた正面扉上のティンパヌムが豪華である。

 西南部の巡礼路沿いでは、サン・セルナン教会(1096,トゥルーズ)など放射状祭室を持つ。また、連続ペンデンティブドームを載せる単身廊や、プリミティブアートの彫刻で豊かに装飾された聖堂も遺る。

 北方のノルマンディ地方では、ノルマン人が先進的な空間構成を促した。双塔の西正面を発展させ、身廊の交差ヴォールト天井と壁面分節を進化させた。

 さらに、ノルマン人はイギリスを征服しノルマンディ公国を建国する。リブヴォールトを発明し、太いピアと交差リブヴォールトによる、完成度の高い正方形区画連続身廊を計画し、ダラム大聖堂(1133)に結実させた。後のゴシック建築に多大な影響を与えた。

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